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こうやって読もう!中小企業の財務指標!③ 安全性分析の基本~その②

こうやって読もう!中小企業の財務指標!③ 安全性分析の基本~その②

中小企業の財務指標シリーズも、気が付つけば4回目です。
前回は安全性分析のうち、短期的な安全性について記述しました。
今回は、安全性分析のうち、長期的な安全性についてお話します。

難易度は上昇しますが、極力平易な内容にします。
ぜひ頑張ってついてきてください。

短期的な安全性だけでは不十分?

前回記述した短期的安全性に関する指標は、企業を判断するうえで大切です。

前回の記事
こうやって読もう!中小企業の財務指標!③ 安全性分析の基本~その①



3か月後の現金化できる資産が100円で、
3か月後に返済が必要な負債が150円だとします。
このケース、危ないですよね?
こういったことを判断する指標が、短期的安全性です。
短期的安全性は、企業の資金繰りの困難さを判定するものです。

短期的安全性に問題がなければ、基本的には、近々に倒産することはありません。
ただし、より深いケースを想定すると、
今回取り扱う長期的安全性を考慮する必要があります。

長期的安全性に関する指標

それでは、長期的安全性に関する指標を確認していきます。

・固定比率
・固定長期適合率
・自己資本比率

今回はこの3つを取り上げます。
このほかにも負債比率、財務レバレッジといった指標が存在しますが、
上記3つと比較すると重要性が低いので、今回は割愛します。

・固定比率(%)
固定比率=固定資産÷株主資本×100

・固定長期適合率(%)
固定長期適合率=固定資産÷(固定負債+株主資本)×100

・純資産比率(%)
純資産比率=純資産÷総資産×100

そもそもの確認 借入と株主資本の違い

指標一つ一つを検討する前に、基本的なことを押さえます。
これがわからないと、この先の話を理解できないからです。

・株主資本は、返済不要なもの
・長短借入金は、返済が必要なもの

この2つをしっかり押さえておきましょう。

お金の流れだけに着目したとき、企業にとって有利なのは株主資本ですね。
なぜなら返済の必要がないからです。
※あくまでも「お金の流れだけ」に着目した場合です。
 安易にエクイティファイナンスを実施し、地獄をみた起業家/経営者は山ほどいます。
 デッド/エクイティ論争に関しての正否は、「目的/場面に応じて使い分ける」が正解です。

長期的安全性に関する指標を確認!

では、固定比率からみていきます。
固定比率とは、固定資産を借入以外の資金で賄えているかどうか?を確認する指標です。
買い物の支払いを、自分の資金でするのか借り入れた資金でするのか?ということですね。
ここから何がわかるのか?というと…
「ムリな買い物をして将来返済に困る可能性はあるのか?」
を判定できるといわれています。
安全という視点から望ましいのは、自己資金の範囲内で買い物をしていることです。
考え方としては十分に理解できますし、筋も通っています。

ところが、です。
設備投資をする場合、中小企業に限定していえば、借入で賄うことが多いです。
なので、固定比率が100%以下であることに拘泥してしまうと、
高額な設備投資ができず成長の機会を逃すことにつながりかねません。
固定比率が100%以下であることによって、確かにその企業は安全であるといえますが、
「安全であること=成長性があり将来のP/Lが保証されている」ことではありません。
ここに留意が必要です。

次に固定長期適合率を確認します。
固定長期適合率と固定比率の違いを確認しましょう。
両者の違いは、計算式の分母に固定負債が含まれているかどうかです。
これも基本的には100%以下であることが望ましい指標です。
固定比率は100%を超えていても仕方がない部分がありますが、
固定長期適合率は100%以下に抑えるのが望ましいですね。
固定長期適合率で把握できるものは…
「回収が長期的になる投資を、返済が長期的なもの+自己資金で賄えているかどうか?」です。
回収に10年かかる投資を、1年以内に返済が必要な借入で調達していませんよね?ということですね。
とても大切な考え方です。
固定比率に関しては正直あまり気にしないでもいいですが、
固定長期適合率に関しては、100%を下回っているほうが望ましいです。

最後に純資産比率です。
全ての資産のうち、何%を自己資本で賄っているのか?を確認する指標です。
基本的には高いほうがいいとされていますが、必ずしもそうとも限りません。
歯切れが悪くて申し訳ないのですが…。
高ければ高いほど、倒産の危険は低いといわれていますし、それはその通りです。
他方で、純資産比率が高いと、レバレッジを利かすことができていないという評価もできます。

具体例で確認!

まず企業Aからです。
企業Aは固定比率187.5%で、望ましいといわれている100%以下という数値を超過しています。
他方で、固定長期適合率は100%を下回っており、流動比率も100%超で推移しています。
何かあったとしても、急に支払いに困窮することはないといえますね。

企業Bです。
企業Bは流動比率が50%と低く、その時点で既に危険です。
固定比率は500%、固定長期適合率も125%と100%超となっています。
企業Bは、回収に時間がかかる資産を、短期的な借入で賄ってしまっています。
回収前に返済期限がやってくるので、何らかの手を打つ必要がありますね。

企業Cです。
企業Bと企業Cの違いは、流動負債と固定負債です。
企業Bの流動負債500,000千円を固定負債に移してあげると、企業Cになります。
500,000千円うつしただけですが、財務指標は大幅に改善します。
流動比率が改善するのが一番の理由ですが、固定長期適合率も100%に収まりました。
回収に長期間が必要な投資を、長期返済の借入で賄えています。

最後に企業Dです。
企業Dは、企業Cの固定負債と純資産を入れ替えた企業です。
純資産が厚く、借入が少ないですね。
安全性という意味では、企業Dが最も優れていると考えられています。
回収に長期間必要な資金を、長期借入+自己資本で補えているのは企業Cと一緒ですが、
C社と異なり借入の割合が低いので安心だと見做せるからですね。

ところが、です。
本当にそうでしょうか?
DはCより借入が少ないですが、流動資産は同じです。
倒産し固定資産を売却したときに回収可能性が高いのは企業Dです。
それは間違いありませんが、倒産する可能性がDはCより低いのかというと、一概にそうとは言えません。
たしかにDのほうがCより調達余力が残っている可能性が高く、
固定資産を担保にした借入ができる可能性もDのほうがCより上ですが、
流動資産は同じ金額なので一概にDはCより倒産しない!
と言い切ってしまうのは危険だと個人的には考えています。
言い切れるのは、D社のほうがC社と比べて回収可能性が高い、くらいまでですね。

まとめ

長くなりましたが、長期的安全性についてみてきました。

みてきたとおり、長期的安全性に関する指標は、
「固定資産を買うためのお金の集め方が適切なのか?」
ということを判断する指標だといえますね。

文字通りの意味で「企業の安全性」を判断する指標としては、
短期的安全性のほうが優れているのは間違いありません。
短期的安全性だけでは不十分な場合に、長期的安全性も考慮してみましょう。

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